憲法9条と沖縄,普天間・日米安保を考える 1 by 新垣 勉 |
新垣勉さんとノリコは司法修習の同期(25期)です。つまり私たちは弁護士になって37年にもなるのです。
その間,新垣さんは,平和と基地の問題に途切れることなく,膨大なエネルギーを注ぎ続けてこられたのですね。
一方の私は,沖縄を1度訪問して,平和ツアーに参加したときや,少女暴行事件のとき口先で怒っているだけだったというのに。
この度のお話の内容は厳しいものでした。でも語りかける新垣さんの口調は穏和そのもので,沖縄人(ウチナンチュー)の粘りと優しさを体現しているように思えました。さぁ本土人である私も,いつまでも沖縄に基地の負担を押しつけていてはいけない,このことがはっきりしました。
1,はじめに
自己紹介:疎開先の熊本で1946年生まれなので戦争の直接体験はないが,91才の母や叔父等から,沖縄戦の体験を聞かされて育った。
今は,弁護士活動の中で基地問題を優先しており,大阪,神戸,奈良,青法協(札幌)などから講演の依頼を受けている。
2 導入→ビデオ放映
鳩山前首相の2010年5月28日の記者会見のビデオ約10分の放映
新垣:その要旨は,以下のとおりであるが,同記者会見の内容・論理は,平均的日本人の共通心情,考え方といえるのではないか。
① 沖縄に対する認識:我が国が繁栄したのは沖縄の犠牲によるものである。沖縄を平和な島として,アジアにおける危険を除去することと沖縄の負担を軽減することが政府の役割である。
② 模索:移転先を模索したが受け入れ先がない。他方,米軍の要求は強固であるので,県内移設もやむを得ない。せめて基地機能の一部を移転する候補地として徳之島を考えた。
③ 結論:県内移設を決断した。
④ 理由:米軍駐留・基地は我が国の安全のために必要であり,今後とも日米同盟を進化させることが必要である。アジア太平洋地域には朝鮮半島など不安定要因があるので,日米安保=日米同盟はアジア太平洋の平和と安全のための抑止力として大きな役割を有している。今回の結論は,沖縄の負担軽減を半歩進め,日米同盟を進化させるために決断した。
3 普天間基地問題の重層性(本日の講演のメイン)
普天間問題を考える際には,3つのレベル(視点)からの考察が必要である。
それは
(1)レベル1:全国的な問題としての視点→「米軍駐留の是非」
(2)レベル2:「沖縄への米軍集中」を許していいのか、という視点
(3)レベル3:「世界一危険な基地」という普天間固有の危険性からの視点
のみっつであり、以下、順次述べていく。
(1)レベル1:全国的な問題としての視点→「米軍駐留の是非」
① 自衛隊の存在同様,憲法上も重要な問題である米軍の駐留は,日本の安全保障のために必要か否か(=米軍は日本に貢献しているか)という視点からの考察
・世論:自衛隊問題は,肯定的世論が少しずつ増加しているが,米軍駐留についてはまだ否定的。
・鳩山:肯定,その理由は「海兵隊の抑止力に思い至らなかった。米軍の抑止力は自分が考えていた以上に重要であることとわかった」
② 抑止力とは
・否定的意見:「米軍は米軍の世界戦略に基づいて軍事活動をしているのであって日本の防衛に無関係である。」,「海兵隊が湾岸戦争・イラク戦争に参加したことは事実であり,それは他国への侵略行為である。駐留米軍は,我が国の平和・安全のための抑止力とはなっていない」
・肯定的意見:「北朝鮮・中国→台湾関係問題が生じたときにすぐに行動できる。これは抑止力である。」
・新垣:「抑止力」は,軍事的概念ではなくて国際政治における概念。科学的にそれが正しいか否かの検証ができない。論証不可能な論理であるからその議論にはあまり意味がない。
③ 抑止力論の虚構性:我が国への武力攻撃の恐れはほとんどない。→ 米軍の駐留が日本の防衛にとって必要か
・新垣:この問いを肯定する人は少ない。現在,日本をめぐる安全保障環境は,他国からの侵略・攻撃を受ける環境にはない。我が国の安全保障のための抑止力という視点では,抑止力論は,せいぜい「核の傘論」として語られる程度であるが,冷戦の終了によりそれも意義がなくなった。北朝鮮脅威論は誇大であり,軍事専門家はこれを余り重視していない。
・赤旗の見解:海兵隊は侵略力であり,抑止力とはなっていない。
④ 米軍駐留を正当化する論理は,安保条約の「極東アジアの安全と平和」から安保の再定義以降「アジア太平洋の平和と安全」へ,さらに9・11以降「世界の平和と安全」へと変化。
・新垣:政府は,駐留米軍の存在意義を,従前,我が国の安全保障の視点から正当化する論理に重点を置いていたが,「安保の再定義」以降,我が国の安全保障にとって駐留米軍がいかに必要かという視点から,我が国の国益にとって,日米同盟の維持がいかに重要であるかという視点に重心を移して説明する方向に動いている。日本政府は,日米同盟の維持・深化=実態はアメリカの要求を日本が受け入れることにより,我が国の国益が守れるとの基本的価値判断・政策判断に立っている。
すなわち,現在は,アメリカの世界戦略(これをアメリカは「世界の安全」という)のために米軍を駐留させることが,我が国の国益に資するか否かという点に焦点が移っている。
基地運動は,駐留米軍の正当化の論理が変化していることを捉え,従前の「我が国の安全保障にとって,米軍は必要か否か」という視点だけでなく,正当化の中心論理である「世界の安全のために,日本に米軍を駐留させる必要があるか否か」とい点にも焦点を合わせて批判すべきだ。
⑤ 世界規模の米軍再編との関係(続く)