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この間、田中千香士先生と初めてお電話でお話しました。
ピアニスト田中希代子先生の弟さんで、ヴァイオリニストです。
田中希代子さんは、俗気のない秘やかな、音やフレーズの最小部分に
霊妙な輝きがあるタイプのピアニスト。
それゆえ、誰にも理解が出来ない部分がある音楽家でした。
影を音にすることも上手でいらしたし、
独自の詩、歌の世界に住んでおられました。
私はパリのオートクチュールのような縫製力を持つ、
あなたの端正な演奏が好きです。
女性なら、一度は身を包んでみたいような、美しい線の数々。
反面、工場労働者のような、額に流れる「汗」を合わせ持つ、
その演奏には、生きることの厳しさと貴さを感じます。
あなたのお料理上手もターチンの運動神経も、
全てその類い稀なる演奏に表れていますね。
神様の音楽の国とこの汚れた人間界とのあわいを、
あれ程純粋に清純にして精緻極まる敏捷性と、
類い稀なる謙虚な心で生きた音楽家は、今後も出ないでしょう。
ところが真の芸術品にこもる神の領域のオゾンを、
これ以上人間に与えまいと、天の計らいは、
あなたのピアノを弾く手を所望して奪ってしまった。
小さな少女が神の生け贄となるように。
田中さんは、人の生命の輝きのために、その身を投げ出して、
すべてを与えて下さった。
こぼれる涙は、田中希代子さんがかって音を通して私に与えて下さった
「真珠」のような気がします。
この世に生まれて、愛して止まない、
自分の魂が高められる方の音楽に恵まれて、
どんなに幸せなことでしょう。
体が弱った時、寝床で私をやさしく見つめる花。
傍らにいるのに気づく清楚な野の花のように、
あなたの音楽は、私を守り励まして下さいます。
「女性としての嫌味がなく女を売り物にしない田中さんがとてもエロティック」
と感じる演奏はというと、不朽の名作・サン=サーンスのピアノ協奏曲第5番
「エジプト風」の第2楽章。
ネイガウスが「ムト・ムネ・エムトの性的情念を感じる」と話していた楽章では、
見事にアラビアの踊りを表現なさっていて、
作曲者のサン=サーンスもびっくりするような永遠の世界を思い出します。
さてさて私はグールドファン。だから喋り出すと止まらない。
寡黙でいらした田中希代子先生。
グールドは田中さんの演奏を聴くことがなかった。
田中さんはきっとグールドはお好きではなかったでしょう。
お二人は正反対だから。
田中さんのお好きなクララ・ハスキルに私が馴染めなかったのは
ハスキルは強過ぎて、怖かったからです。
今はハスキルさんと一緒にいらっしゃるのですか。
きっとツァラトゥストラのあの山に、お2人は住んでらっしゃるのね。
あなたの2月5日のお誕生日と2月26日のご命日のために、
どんなお花を用意しましょうか。
グリーンが好きでいらしたとの事で、グリーンを中心に淡い色のお花が、
ポッポッと目立たなく見えるような花束と、なんといってもバラの花束。
バラだけが田中希代子先生にふさわしいように思います。
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