バッハと官僚 byマサコ |
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井上靖氏の自伝的要素が強い本『夏草冬濤』の中で
「豆腐と納豆 は大嫌いで、豆腐と納豆の好きなヤツはもっと嫌い」
というセリフがあった。
「嫌いな人が同じでないと友達になれない」という言葉も
「その人がどんな人か知りたければ、友人を見ればわかる」に通じる。
私はバッハが大好きだけれど、
バッハの中に特に目立って嫌いな曲が一つある。
「半音階的幻想曲とフーガ」である。
最初に聴いたのはケンプの演奏で、何ともやりきれなかった。
シュナーベルとフィッシャーの演奏も聴いたが好きになれなかった。
この曲のかもし出す「官僚的雰囲気」が耐えられなかったのである。
出だしのフレーズは、曲がどの空間に漂っているのかを示す場合が多い。
私はこの曲ではまず、高飛車で不安定さを感じる。
受けて立つ次のフレーズは、つべこべ理屈的。
勝手気ままな、絞切り口 調が思わせぶり。
決まりきったあの調子、この調子のワンパターンで、
allargando(音を強くしながら次第に遅く) で前半が終わる。
後半はテレビでよく見る官僚の答弁、
「前例がないから...」
「調査中であるので...」
の文句と共に、その顔がドアップになるシーン。
浅はかで非情な語りは口先だけのもの。欲得だけの想い。
大きな建物、座り心地のよい椅子。
「俺は偉い、権威がある」
の深い満足感で幻想曲は終わる。
続くフーガのテーマの何というみすぼらしさよ。
人のしみったれた貧しい心がメロディーになればこんなものだろうか?
それが終わりに向けて膨脹しつつラプソディ風押し付け、
「俺は人生の勝者。 敗者はおまえらだ」と言わんばかりで終わる。
曲の悪口も人の悪口と同じで、あまり言ってはいけないのかもしれない。
ピアニストでこの曲を嫌い、「一回きり」と断って弾いた人がいる。
それもあのフーガ好きがフーガを弾いていない。
グレン・グールド。
やっぱりグールドと私は友人なのだ。
30年近く咲き続ける(しかも一輪だけ)身長60cmはある原種に近いガーベラ
そのアップ
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そう云えば、この曲、グールドの演奏では聴いたことがないような気がします。
私個人は、鈍いのか、それほど好きでも嫌いでもない曲なのですが、音楽家には、どうしても自分の感性に合わないというのか、理解できない曲というのがあるようですね。
私が結構好きなオーマンディという指揮者も、シベリウスを得意としていながら、シベリウスの交響曲のうち、第3番と第6番は理解不能だと言って、ついに演奏しなかったそうです。
なお、嫌なものつながりというわけでもないのですが、先日お伝えしたグールドのショパン、音源がありましたので、余計なことかもしれませんが、添付しておきます。
(エキサイトでyoutubeのアドレスを入れると拒否されるので上記お名前から飛んでください)
コメントありがとうございます。
グールドは半音階的幻想曲を ビデオで弾いてます
しゃべっているので 露骨に嫌いだという発言したのでは?
好き嫌いはどんなところでもその人を語るような気がします
私は耳が弱いのかオーケストラ作品を受け付けにくい。これは好き嫌い以前の問題です。
オーマンディの話面白く伺いました。
そのぐらいはっきりしていた方が良いのではないでしょうか 。自分に似合わない服を着ることが 得策ではないように、自分に合わない曲を無理して演奏することは馬鹿げていると思います。
まろやかで徳の高い性格の方は、激しく好き嫌いを感じなかったりあるいは表さなかったりなさいますね。
得意となさるシベリウスの作品の中から特に自分に合わない曲を感じ取っておられるオーマンディは素晴らしい音楽家だと思います。
シベリウスは、理由を知りたいでしょうね。
このエッセイを書いたころは40代のはじめぐらいで、政治をそれほど重要とは思っていませんでした。むしろうっとうしいと思っていたくらい。
幼い頃からなんとなくムカつく雰囲気の男性を嫌がっていましたが、20代位でそれは官僚タイプだと気付きました。
カナダに行って 官僚的が beaurocraticと知り、英単語の語感に感動したものです。
今年になり、官僚というのは自分の国が他国に支配されていた方が自分たちの権力を保持しやすいのだと官僚嫌いの理由が分かりました
加えて、バッハの奥さんが随分作品を書いていたのではないかを追求したドキュメンタリーを観まして、 大好きなバッハの一部分を 受け付けることができなかった 謎がわかりました。
長生きをすると色々な事から、地層を形成するように納得できるとしみじみ思っております
朝晩冷え込む時があります どうかお風邪など召されませぬように
マサコ
ご紹介のグレングールド、ショパンソナタyoutube を少し聞きました。
音が悪いせいか 泥臭く響きますが 説得力と主張は 見事な 音楽だと思います。
ただショパンというのはやはり この youtube の お花の絵のように 自然が良いようで、理詰めで論理的に弾いても 魅力的には思えません。
練習曲が、一曲ありますが、そっちの方が面白いです。
無名の若い時の演奏ほど 純粋で 輝かしいものはないように思います。
プラッツとの共演、ヤンググールドの バイオリン 伴奏は 世界遺産だと思います。
姉からの伝言です ゴールドベルグめぐる8章が 順番がぐちゃぐちゃになっていたそうです。 申し訳ございませんでした直しましたのでということでした。
マサコ
ところで、グールドのバイオリン演奏というものがあったのですか。びっくりです。
[ハープの誕生]の 歌曲からピアノとバイオリン用に編曲された演奏も素敵です。
この演奏のことを紹介したエッセイがあります。
私の宝物 http://kaikyou.exblog.jp/3449356/
グールド家では、 父上がバイオリンを弾かれたそうです。
いつもご感想を頂きまして、本当に有難うございます。
マサコ