アルゲリッチとコヴァセヴィッチ byマサコ |
1980年に「アルゲリッチが3人の女の子の母親で、お父さんが一人一人違う」とアルゲリッチのお弟子さんから聞いた時、びっくりしたけれど、いかにも奔放なマルタさんの人生らしいと思った。
ピアニストのコヴァセヴィッチは三女のステファニーのお父さんである。
そのステファニーが撮影したドキュメンタリー「アルゲリッチ 私こそ、音楽!」は、ステファニーの出産から始まる。
男の子が生まれるとマルタさんが嬉しそうに産室に入って来る。
美貌、才能、名声を持つピアニストである母親は、普通の母親が子供に与える幸せは与えられないかもしれないが、それでも娘たちは口々に「ママは女神だ」と言っている。
マルタは「本当に愛したのはステファニーのお父さんだけ。私はステファニーといるとくつろぐの」と語る。
コヴァセヴィッチ氏は、3人の男の子の父親でもある。そしてマルタとの結婚生活を振り返りながら
「僕たちの生活には明るいリリシズムがなかった」と述懐する。
なんと意味深い言葉だろう。
外交官である中国人との間に生まれた長女は、波乱万丈の生い立ちをくぐり抜けてきた。
シャルル・デュトワとの次女。とアルゲリッチ家は登場人物に事欠かない。
コヴァセヴィッチ氏の若い頃の写真しか知らない私は、フィルムで実にふっくらとした香りの佳い初老の男性が現れた事に驚いた。
折に触れ、このドキュメンタリーの映像が頭をよぎる。
「家族」を考える上で、とても貴重なフィルムに出会えた事に感謝している。
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