「動的平衡」福岡伸一著 |
福岡伸一氏は、どの分野の事柄からも最高の値いを引き出し、
適切な比喩を用いて、読者に永遠不滅のエッセンスを手渡す事の出来る文筆家である。
純度の高い内容を一流のリズム感で演奏し、必要とあれば、
ダンスしているのでは?と思える文体で、読者を魅了し尽くす。
中でも私が人生に抱え込んでいる仕事
「人の念はどこから発生し、人の心はどこへ流れているのか?」
「人の心は社会にあって、他の人の心の世界にどう役に立つ事が出来るか?」
にテーマにふさわしい章に興味を持った。
第1章の「脳にかけらた『バイアス』」では
「空目(ソラメ)」として「直感」が否定的に解説される。
彼は霊的な体験は「人間の脳に張り付いたバイアス」、
つまり「錯覚」として片付けられているわけではないが、
当事者としては片付けられそうな気がする。
反面、p36にある「記憶の正体」として、
「つまり過去とは現在の事であり、懐かしいものがあるとすれば、
それは過去が懐かしいのではなく、今、懐かしいという状態にあるにすぎない」
との説明では、人間の過去の記憶に巻き込まれる私の生活に回答を与えられた気持ちになった。
第8章「生命は分子の『淀み』」の「豚は思考しているか」(p242)には
「ヒトがずっと蔑んできたブタはひょっとすると、
ヒト以上に繊細で、知的で、上品さゆえに、
ずっとヒトの蛮行と非寛容に対して寛容であり続けたにすぎないのだ」
とある。これは私が長年考えていた事と同じ考えに出会い、嬉しかった。
同じ章のp240では象や鯨が使う低周波についての説明があり、p241で
「音楽用コンパクト・ディスクでは『人間には聴こえないから』として、
このような低周波と20kHz以上の高周波はバッサリと機械的に捨象されている。
しかし、ある種の高周波を聞き分けられる人がいるのも事実であり、
犬笛までの例を挙げるまでもなく、動物たちの耳はずっと高い音を聞いている」
の説明に、近い将来、私のようなアイデンティティの人々の仕組みも解明される日が来る事を思い、勇気づけられた。
他にも取り上げたい箇所は多い。
反面、私にはブロックされてしまう分野の話もあったが、稀なる資質の方のお話に「大お年玉」の年明けだった。
「万人にお薦め書」として、広く読まれるべき「網羅系」の名著。