グレープフルーツが実る家 3 by keiko |
遠くに老いた親を持つのは私も同じ。リンダの気持ちは良く解る。「ベストを尽くします。私にとっても大事な人だから。信頼してくれてとても嬉しい。」
リンダとはそれ以来,ジョーンぬきで連絡を取りあう仲になった。
予定通り3週間でジョーンはこの町に帰ってきた。ビルと保険会社が派遣してくれた看護師に付き添われて。1日がかり,3本の飛行機を乗り継いでの長旅が病身にどんなに応えたことだろう。 そのまま病院に入院。
それから間もなく,ジョーンは無事に退院することが出来た。
全く周囲の心配をよそに生還を果たしたのだった。脳溢血の程度が軽かったのは幸運だった。しかし家に帰りたいという強い彼女の信念が回復を早めたのは明らかだった。
もちろん麻痺は拡大し痛みとの戦いも相変らず続く。それに対応するために,早速2人で新しい介助法を編み出すことに取り掛かった。症状の変化に伴い私の仕事日は土日を除く週5回に増えた。ジョーンを訪問することは既に仕事と言うよりあたりまえの日課となった。「こんなに毎日会っていても話す事が無くならないね」そう言い合って一緒に笑った。
秋,彼女の80歳の誕生日に家族親類が集まるパーティーが計画された。オーストラリアから息子夫婦が到着する日,リンダの家族が来る日。カレンダーにたくさんの赤い丸印が付いた。
「あなたにもぜひ来てもらいたいと思っているの,御主人と一緒に。私のお願いだから聞いてね。」
その日の彼女は愛する人々に囲まれて少し遠慮がちに微笑んでいた。
いつもはひっそりとした客用の居間が,大勢の熱気に包まれてまるで違う部屋のようだった。子供たちと,孫や姪たちと,兄弟たちと,語り合う嬉しそうな彼女は注文に応じて何枚もの写真に納まっていた。 ジョーンを応援する
みんなの心が,暖かい輪を作っているのが目に見えるような夜だった。
1日でも長く平和が続いて欲しいと願う。
仮にジョーンが無事に過ごすことが出来たとしても,ビルに何かが起こったら彼女の今の生活は維持できなくなる。2人にとって日ごとの無事は宝物だ。
冬の訪れとともに少しづつグレープフルーツが色づき始めた。今年は立派に大きな実が生っている。やっとここまで来た,と実を見上げて思う。
来年も実るだろうか。それからその次の年も。何回も何回もこの景色をジョーンと一緒に眺めたい。