姑の鎮魂の為に その2 by 山田美智子 |
残りの足の保全とそれぞれに些か食い残されている足の再生と、自分の足を食べざるを得なくなった原因を追求にかかり、問題を明らかにしつつ、しかし明らかにしない方が良いと判断したことには、問題のすり替えも考え、細胞の活性化の新たな研究により、食い潰すより早く再生出来る方向の検討を重点目標に置いています。
実行性の少ない懲りない軽めの会議で表情だけを重くしてバランスをとっているだけのようにも感じます。(そういえば姑は蛸とこんにゃくをいれ、醤油で味をつけるという独特の蛸焼きが大好きでした)私は彼女相手に、市民運動についてポツポツと、砂場に水を注ぎ込むような活動の大変さと大切さと楽しさを語り始めました。
「行政に自己主張することは、悪いことじゃないですよ」
「充分におかあさんの分別で考えて、これだけはしたいということから始められてはどうですか。お手伝いはします。ただ希望の無いところに、希望の灯火を点けるような仕事になりますよ」
「法律は人の為にあり、法律の為に人がいるのではないはずですよね。法律など要らないところの人々は、皆お互いを愛し合い、自己を律することの出来る人々。芦屋市に街づくり条例が無かったのは、市民それぞれが-こういう芦屋に住みたいという願いをもって家を作り、木々を植え、朝に晩に六甲の山見て、緑の色調でお天気なんかも観たりして-それなりに皆の思いが一つになって、美しい町並みを守ってきたから要らなかったのだと思いませんか」
「権利を目一杯主張して、民主主義を口にする恥ずかしさに気づかない人逹は、本来芦屋にはふさわしくないのです。自分たちの負うべき義務を見つけて何かをしてこそ市民だと思います」
「国の法律が、市の条例を超えるという笑止千万な無意味さを、全国で臍を噛んでいる街づくりの仲間とワイワイやるのも楽しいと思う。おかあさん、楽しまないと悔しいじゃない」
「もっと町内の方逹と意見交換をしなくては」
等々と、反応を見ながら、気持の持ち方を変えて欲しいという一念で短かいコミュニケ-ションをとっていました。姑は、
「忙しくしていて、なかなか捕まらない。ちょっと今いい?」
「手紙を出したいのだけど、出していいものかどうか」
「言い残してることはないかなぁ。いつもなんか忘れてるから。あんたの顔は、なんか見ただけで安心させるようなとこがあって、ようないわ」
段々明るくなって来て、余裕を見せる時もあるとホッとしました。
マンション問題研究会やそれから発展した芦屋市民街づくり連絡会に一緒に出たり、一人でも出て行ってました。
昨年の暮れに
「もう一度、自分の今の気持を役所の人に書いて出したいけれど、今更何をと笑われるだけでみっともないやろうか。どう思う?」
「書きはったほうがいいと思う。したいと思うことは何でもしたほうがいいと思う。行政の人が市民の考え方や感じ方を勉強したほうがいいと思うしね」
というやりとりをした。
それから、姑はお正月の用意にかかり、元気でお正月を迎え、例年通りに、山田家秘伝の〔お米から作る甘酒〕=〔発酵させればドブロク〕を仕込んだ。
「美智子さん、何だか今年は失敗してもうて、発酵が異常に早いから、冷蔵庫に預かってよ。此処の分もあるからね。何が何だか、さっぱりわからへんわ」
と言って置いて帰った。お陰でうちの冷蔵庫は、低温発酵日本酒製造機と密かに名前を変えたのでした。
1月9日(月)姑の誕生日は、商工会婦人部のことで忙しく、何時もなら花束とギフトカ-ドを持って行き、話し込むというパタ-ンなのでしたが、夜を迎えてしまったのです。
あくる日、
「市民運動ちゅうもんは、すこしは朧げに何だかわかってきたみたいな気ぃがするけどねえ。私と町内会長さんとの関係は、どういうもんなんかねぇ」
「私の責任ですることが、あってもいいのかしらん」
「何べんも言うようやけど、都合の良いことばかり書いて出してる文書でも、役所は事実調査もせんと受け取るんかねぇ」
「誰かと一緒に裏をとって歩いてみようかしら」
「余命いくばくかの年になって、たちの悪い人間に徹底的に馬鹿にされては、死んでも死に切れんというもんや」
この時になってやっとプレゼントを渡せたのでした。
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