「海の女」と「すずらん」そして「失題」 byマサコ |
共に1912年の作である。
「海の女」は45.0×33.3
「すずらん」は22.2×15.8
共に白が多く、白の好きな私は、版画展で絵筆で描かれた作品に接したこともあり、感動した取り合わせだった。
「海の女」には海の匂いも魚の匂いもない。
恩地孝四郎の赤は、毒気のない澄み切った赤で、ほのぼのと大らか。
フランス語のpとaの音が、この赤と同じ種類で大好きな色。
その内恩地孝四郎は、母、彼の心にある母のイメージをこの作品に表現したのかと思うようになった。
真っ白な心で、軽く明るい情熱で、生命を育む母の姿を。
一方、田中恭吉の「すずらん」はカンヴァスでなく、板に描かれている。
その小ささが、スズランのイメージにぴったりである。
このすずらんは恭吉の亡き母に捧げられた花束かもしれない。
田中恭吉は「海の女」に影響を受けたのか、1913年頃に「失題」という鉛筆、水彩25.8×17.8cmの女性が沢山いる白・赤・グレーの作品を残している。
旧姓・井伊頼子というすばらしい母親に育てられた恩地と、
母親に死に別れた恭吉の世界の違いまで感じてしまう。
縁は美しいベージュで囲ってある。
この作品をしみじみ好きになったのは、「海の女」と「すずらん」を観たからで、
それまでは画集で目にも留まらなかった。
恩地画伯を「孝ちゃん」とは呼べないけれど、田中恭吉さんは大きな声で
「恭ちゃーん」と呼びたくなる。