田中希代子を聴く byマサコ |
田中希代子さんのモーツァルトピアノソナタ第11番イ長調を聴いた。
子供の頃から「ピアノピースアルバム」でトルコ行進曲だけ耳にしていたので、
全楽章の田中さんの解釈に触れたのは初めてだった。
その個性、タッチの変化、
微妙なハーモニーの浮かび上がらせ方、
田中芸術の個性である激しい気迫、
田中希代子芸術の全ての元がちりばめられていた。
あまりに個性的なので、グールドを思い出した。
そして彼がこの演奏を聴いたら、なんというかしら?と思った。
「女性にはかなわないよ」 かな。
聴き慣れたトルコ行進曲より、2楽章のメヌエットとトリオをこよなく愛する私は、
その美が私の理想とする弾きたかった音楽そのままだったので、感激した。
このCDをネットで知る直前、心の中に田中さんのサンサーンスのピアノ協奏曲5番の一節が流れていて、どうしたのかと思っていた。
その理由は知らなかった彼女の演奏を知るまえぶれだったと思う。
田中さんは、グールドと同じで体が弱い方である。
体力的に厳しい現実を抱えて、ピアノを弾いていらしたと思う。
その現実は、しばしば愛聴する私をも脅かせてしまう。
精神力が旺盛(病弱の人の方が精神が研ぎ澄まされ、強いことがある)で
通常、鈍くて大まかな常人が持つ神経とは全く異なる世界に住んでおられる。
今日のビジネス英語で「harsh reality(厳しい現実)」が出た。
この「harsh」には思い出がある。
私自身、手が痛んでいる時のレッスンでは、先生に「harsh, harsh !」(耳障り)と言われていた。
こういう厳しい現実の中で純粋な音楽を求め続けた田中先生の精神の世界は、
かえって耳障りに聴えてしまい、あまり一般受けしないのではないだろうかと考えた夕べだった。
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