エッセイ&映画#1 『DISTANCE』 by mari |
出演して俳優デビューした二人、井浦新(当時はarata)と伊勢谷友介を
起用してロード・ムービーを作ろうとしていたところに、オウム真理教の
事件が明るみになり、その影響も受けて作られたそうです。
また、以下のような斬新な手法が用いられたとのこと。
1) 脚本にはその出演者のみの最低限の台詞しか書かれていない。
他の出演者の台詞はなく、動作などの細かい指示もないので、ほとんど
即興的演技で展開。
2) 全編手持ちカメラ、自然光のみによる撮影。
3) 音楽はまったくなし。
ということで、極めてドキュメンタリーっぽい、臨場感のある映像になっています。
・・・
カルト教団「真理の箱舟」の信者が東京の水道水に新種のウィルスを混入させ、
無差別大量殺人を起こした挙句に、実行犯たちは教団によって殺され、教祖も
自殺した事件から3年目の夏。
実行犯たちの命日には、遺灰が撒かれた森の中の湖に遺族たちが訪れる。
今年も敦(井浦新)、勝(伊勢谷友介)、実(寺島進)、きよか(夏川結衣)は、
途中までは車で、その後は徒歩で目的地に辿り着いた。
かなりの奥地、深い森の中、まるで別世界のようなこの近辺で信者たちは修行を
していたという。
夏空の下、しばらく散策したり昼食を食べたりしてから湖の桟橋で慰霊を済ませた
4人は帰路に着く。
が、停めておいたはずの車がなくなっていることに気付く。歩いて帰るには遠すぎる
道のり。どうするかと揉めている最中、元信者だった坂田(浅野忠信)という
男が現れる。
坂田の停めておいたバイクもなくなっていた。
5人は仕方なく、実行犯が最後の時を過ごしたロッジで一夜を明かすこととなった。
そこにはそれぞれの家族たちの生活の名残りが残っていた。
眠れぬ夜に5人は自ずと、失った家族との記憶をたぐることになる。彼らの姿や
言葉を思い出し、お互いの人間性や脆弱な絆を思う。
こうして5人は今まで避けてきたものと向き合うことになるのだが・・・。
・・・
台詞も動作も役者の即興が多くあって、しかも手持ちカメラ撮影、そして全編まったく
音楽なし、ということで、常に何かしらの緊張感が漂っていることが、特異なストーリーに
見合った効果を与えています。同時に2時間以上の長尺なので、それが疲労感にもなり、
観る側の集中力が継続しにくいところもあるでしょうか。
是枝監督作品は長いものが多いのですが、本作については1時間40分くらいの長さが
良かったんじゃないかと思います。
一方で日頃音楽がついていて当たり前の映像を見慣れているせいか、それがないと、
こんなにも淡々とするものなのか、と。音楽がどれだけドラマ性を盛り上げてメリハリを
つける効果があるのかを知ります。
と、是枝監督作品にしては文句が多いのですが、決して嫌いではありません。人間の
本質的な部分に迫る是枝監督特有の深さもあります。
しかし、仕上がりとしては、ある種、実験的な作品として好き嫌いは仕方なく分かれる
のかもしれません。
森や湖の光景、鳥や虫の声などの豊かさ、濃密な自然の描写は素晴らしく、特に
神秘的な湖は事件が起きた場としての存在感がたっぷりです。
森の奥深くへ進むシーンには夏の濃い緑の匂いや強く刺さるような陽光さえ感じられ、
その場に自分も居るような気分にさせられます。
理想の世界を求めたカルト宗教団体をバックボーンにした事件の加害者の家族で、
しかも遺族、という視点はなかなか複雑で、興味深いものがありました。
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『DISTANCE』(ディスタンス) 2001年公開/132分/配給:DISTANCE製作委員会
スタッフ■監督・脚本・編集:是枝裕和、ゼネラルプロデューサー:重延浩、斎藤晃、
プロデューサー:秋枝正幸、撮影:山崎裕、美術:磯見俊裕
キャスト■井浦新(arata)、伊勢谷友介、寺島進、夏川結衣、浅野忠信、りょう、
遠藤憲一、中村梅雀