木村草太氏の「テレビが伝えない憲法の話」その2 by 大西誠司 |
集団的自衛権がなぜ違憲なのかの解説に続き、自衛隊法の存立危機事態条項について解説。私もこの条項が憲法13条の文言をそのまま引用していることには気が付いてはいたが、その理由をまず木村先生は説明してくださった。
政府は憲法13条を武力行使の例外根拠にしているが、その中に集団的自衛権の一部が含まれるという論理構成にせざるをえなかった。だから政府は、13条の文言を引き写しにする条文にすることで従来と矛盾しないと説明。
しかし13条で根拠づけられるのは日本の安全のみで、そこまで危険になっているなら個別的自衛権の範疇に入ってしまう。結局、日本が攻撃されていない状況で「存立危機」の認定はできそうもなく、「集団的自衛権」は行使できそうもない条文。
木村先生はインタビューで、結局この条文では従来の「個別的自衛権」の範囲内のことしか出来ないので「合憲」との見解を述べたところ、「集団的自衛権は使えない」というのが力点だったのに、「木村はこの条文を合憲と言った裏切り者だ」と攻撃されたとの事。
また、木村先生は国会の公聴会でも、「日本が危機っぽい時には集団的自衛権を使っていい」という曖昧な内容で法律の要件を満たしていないと指摘したが、衆議院はその二日後に可決した。この木村先生の違憲理由は橋下徹氏とも一致した。橋下徹と木村草太の意見が合っている条文なんて、ロクな条文じゃない証拠だ(笑)と述べた。
<閣議決定された付帯決議>
以上のように使いにくい条文なのだが、危険なのは、政府の「存立危機事態」の判断だけで出動できてしまいかねない点。ここで木村先生は、松田公太氏が代表の「日本を元気にする会」の修正について紹介した。
松田氏自身は法案に反対だったが、小さな党がただ反対しても無視されるだけと修正案を突きつけ、閣議決定をさせる条件で賛成に回った。結果的に賛成した事で裏切り者とされ、一部ネット上では松田氏が立ち上げた「タリーズコーヒー不買運動」を呼びかける人たちもいた。
気持ちはわからなくはないが、「断固反対」とは異なる戦い方をした人たちがいたことも悪くはなかったのではないか?
特に閣議決定の第2項が重要で、日本が直接攻撃されていない(武力攻撃事態でない)が、存立危機事態に該当する=純粋に集団的自衛権でしか説明できない場合には、例外なく国会の承認を求めている。今後はこれを法制化する必要がある。
この付帯決議は実際ほとんど報道されなかった部分。ある講演では、「赤旗では付帯決議報道は全くなかったが、赤旗は偏ってるのか?」と質問した方もいたそうだ。自分は報道ステーションで木村先生がこの修正案の意味に何度も言及されていた事ははっきりと覚えている。なお松田氏は、政府が反対運動に追い詰められたから少数政党とも妥協したのであり、この歯止めは多くの国民運動の成果だと強調しているそうだ。
確かに自分たちと戦い方=方法論が異なるという理由だけで敵扱いしてしまいがち。この違いを認められない狭い運動からの脱皮は、今後の国民投票を目指す多数派形成運動ではとりわけ大事にすべき点なのだろうと思います。
3. 天皇の生前退位問題
今話題となっている天皇の「生前退位」問題についても、憲法上の扱いを解説された。
天皇の「お言葉」は、政治的影響が大きく、内閣で厳格に管理され、問題が生じた場合は内閣の責任とされる。
外国訪問も外交影響があるため、主権者である国民の代表の内閣が決める。
今回の「お言葉」も、内閣が国民に聞いてもらうべきだと考えたから発せられたという点は押さえておくべき。
譲位を認めないというのは、そもそも伊藤博文の意向で明治時代に決まったことで、戦後は昭和天皇の戦争責任の問題からそのルールを引き継いだ。
つまり過去のデリケートな裏の理由があって譲位を認めない条項が残っているが、現天皇は、過去のしがらみにとらわれる理由はない。
政府は特別措置法を定めようとしているが、憲法第2条に皇位継承は皇室典範で定めると規定され、一代限りの特別法は今後恣意的に使われる余地を残してしまうし、憲法の趣旨に反するので良くない。
4. 辺野古訴訟について
最後に、木村先生は辺野古訴訟における憲法問題について解説された
木村先生は、この問題で意見書も書いているが、主な争点は、政府の埋め立てに合理性があるのか?
埋め立てて基地になれば自治権が制限される。
憲法上、地方自治権の制限にはその根拠が必要とされる。
しかし、現状では閣議決定しか存在しない。
憲法92条は、そうした地方自治の組織や運営に関することは法律で定めるよう求めているがそれはない。
加えて憲法95条は、辺野古基地建設のように、1つの自治体のみ適用される特別法を制定する際には、住民投票での同意が必要と定めている。
政府はこのどちらの憲法の要件も満たせていない。
よって、仮に埋め立てても、法的要件を満たさないので基地として運用できない。
つまり、埋め立てても基地として使えないものを基地として埋め立てることの合理性はゼロだ。
よって、仲井真前知事の埋め立て承認は無効である。という論理立てを木村氏は沖縄地元紙に書き、裁判での論理としても使われた。
ところが福岡高裁の判決は、「法律はないが、条約があるので憲法違反ではない」とのとんでもない内容だった。もし条約で自治権の制限ができるのであれば、脱法行為的に憲法92条も95条もバイパスが可能になってしまう。裁判官は自分が書いていることが分かっているのかという水準の判決だと断罪した。
なぜこんな判決を書いたのか?について木村氏は実は陰謀があるんだと指摘し、こんなひどい判決を書けば、辺野古に反対している人たちは大同団結する。そのためにわざとこんな判決を書いて悪役を演じたんだろうとのブラック・ジョークで聴衆の笑いを誘って講演を締めくくった。
以上のように、木村先生はユーモアや分かりやすい例えを駆使しながら、複雑な法律論のロジックを明快に解いて見せてくれました。
とりわけ私たちが知らなかった相手側の論理も含め、多様な視点の重要性を指摘してくださいました。相手側の論理にも何らかの真理はあり、それをきちんと踏まえないと的確な批判はできませんし、違いを乗り越えた仲間を作ることもできません。自分たちこそが正義の側で、異論は不正義だと決めつける一面的な視点の落とし穴を指摘してくださったと感じました。こうした反対側からの視点を持ち、相手側の論理も理解する点は、「9条の心ネットワーク」の活動でもずっと大切にしてきましたが、これからの国民投票をにらんだ運動をさらに一層の広がりを持たせる試金石になると感じています。
木村先生には、素晴らしいご講演への感謝を改めて述べ、以上報告とします。
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