ウ・ミンイー連作短編集「歩道橋の魔術師」より第1話『歩道橋の魔術師』 byマサコ |
息を飲むような滑り出しに圧倒される第一話である。
主人公は7歳から10歳位までの少年の様子を、「リズムやかおり」まで添えて、思う存分振りまいてくれる。
少年と魔術師との関係が色濃く描かれていたこの第1話なのに、
後続の短編にいろいろな年代の人物が登場し、魅力的な話ばかりが続くので、
一番子供っぽい話はすっかり忘れてしまった。
ここでは小さな男の子が魔術師に圧倒され、そのマジックを習いたい。
それが嘘で、とんでもないものだとわかっていても、まだ接触したい。
その壊れそうな涙ぐましいほどの感受性は、私たちの幼い時にはいつも持っていたものかもしれない。
お話の基礎は、生活のリズムと家の中の出来事。
少年の持つ興味がワンダーランドで続いていくのである。
読者によっては、魔術師そのものに集中してしまい、他のことは目に入らないかもしれない。
内容が豊富で濃いわりには、重苦しくなく、透明感のみが静かに漂う。
その全てが材料が的確に選ばれ、厳密に調理された超一流の味わいなのだ。
スルスル滑る映画のような展開は、あっという間に私の胃袋に入り、こなれ、血となり肉となり、全身をめぐって神経を軽く震わす。
なんたる刺激、なんたる美味。
魔術師の存在に集中しながら、この本の中で彼の役割が何であったのか、もう一度きちんと考証したいと思う。
この作品が、感受性豊かな表現力のある読者に巡り会え、各国の「ミンイスト」との出会いがあることを願ってやまない。
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