黒岩重吾著「女龍王神功皇后 下」byマサコ |
- 新潮文庫・平成14年3月1日発行読了・2019年5月7日作者はシャーマニズムへの見識が高い。以前、「霊聴への約束」の題を見たとき「まるで私の16才のニーチェのツァラトゥストラ体験みたい」と思った。エッセイなどでそのことを語ってはいないが、私は黒岩重吾には霊体験があるのではないかと思う。彼は、体験者の話を見たり聞いたりすると、体験者のレベルまで疑似体験できる、感受性の強い人物なのだろう。戸塚文子さんが絶賛した風土描写も、彼が実際その土地にいたのだろうかと思う。写真を見たり人の話を聞いたりするだけで、プロを納得させる仕事ができるのだろう。九州の香椎の宮に住む姫尊(後の神功皇后)は古事記や日本書紀が作り上げた架空の女性といわれている。この小説では受胎の時から龍神の守護と関与があったとされている。著者は古事記や日本書記の記述から、納得いくものを取り上げ、小説の適切な場所で紹介している。古代からの書物に書かれていることを否定せず、注意深く選択し、それを取り上げる根拠・考察の過程を、読者にきちんと伝えてくれる。彼の考えに至った道筋を知ることは、黒岩古代小説を読む大きな喜びである。「古代小説の第一人者」と言われる理由がよくわかった。私的には、地元の兵庫県や2年過ごした九州の地に関連する話題が多く、古代史なのに近親感が持てた一冊だった。地名にも詳しく、なぜそういう風に変わったのか、そして現在はこの名になっているという説明はいつものことである。