ニュージーランド出産記(2) by Keiko |
実際のところ、始めから少しの不安もなかった訳ではありません。まだ英語が思うように話せない、生活習慣も、食習 慣も違う異文化の中ですから。それでも日本に帰って産もうと思わなかったのは、日本でもニュージーランドでも医療者側が最終目標としていることが同じであれば、それでいいと納得したからです。
日本でも看護婦をしていた経験から考えても、(特に出産は)道すじが異なっても良い状態で妊娠を維持させること、安全に分娩させることに変わりはありません。
また分娩時の痛み止めを自分で選べるのもそうですが、出産する場所も、自宅か病院か自分で決められます。いろいろな選択肢の中から、助産婦さんの助言を得て、どんなふうに子供を産みたいか、自分なりのイメージを描き、計画を立てることができます。
そういうふうに考え始めると、不安というより自分が主役という前向きの気持ちの方が強くなり、出産の日を迎えるのがとても楽しみになっていきました。
2. 産前教室
産前教室は合計8回。妊娠5ヵ月までに受ける2回の早期クラスと、8ヵ月頃から受ける6回の出産準備クラスに分かれています。
早期クラスでは、妊娠中の栄養、生活の注意、身体的トラブルを防ぐための運動を中心に、また出産準備クラスでは分娩について3回、産後について3回の講習があります。
仕事を持っている人も、夫たちも無理なく参加できるように、クラスは夕食後の7時~9時の2時間です。
特に印象的だったのは、すべてが具体的だったことです。
・夜中の2時に突然陣痛が始まったとしたら、あなたはどうしますか? という話し合い。
・陣痛を和らげるいくつもの方法の実地練習
(マッサージ、体位の工夫、枕・クッションの使い方)
・陣痛の状況を助産婦に電話連絡する時の要点項目
・分娩室への緊急用入口の利用方法
・分娩室、入院病棟の見学
・乳幼児の突然死症候群から子供を守るための蘇生法の講習、実技
(世界的に見てもNZニュージーランドは死亡率が高い)
また、分娩担当医による説明では、分娩の途中で、積極的な医療行為が必要になった場合の処置について、とても詳しく特に妊婦の身体に直接用いる器具類はひとつひとつ手にとりながら話しを聞くことができました。
基本的な分娩のメカニズムなどについては勿論ですが、『“知っている”ということが不安を取り除く』という考えが全体に貫かれています。不安は妊婦の緊張を高め、スムーズな分娩の進行を妨げるからです。
6回の講習の最終日には各自持ち寄りのサパーパーティがありました。顔馴染みになったクラスメイトたちと互いに健闘を誓い、「Good luck !!」 と幸運を祈り合いながら解散しました。
3. 受講者たち
この産前教室を、ほとんどの場合、カップルで受講しますが、それは夫が出産の大切な脇役だからです。夫婦の両方が正しい知識を身につけ、出産に望みます。
そして夫は妻の陣痛が始まると仕事を休み、時として冷静さを失いがちな妻を助け、励ましながら子供が産まれるまでの長い時間を共に乗り越えます。
これはもう単に“立ち合う”という範囲を越えたもので、出産を共にする仲間(labour companion) と呼ばれています。私もいくつかの出産体験談を雑誌で読みましたが、いずれも話の中に出てくるのは I ではなくWeでした。
4. マタニティードレス
さてそのころ季節は秋。足元の冷えと、迫り出してきたお腹のために、マタニティードレスを探しに行こうとしましたが、ここにはありませんでした。
聞くと、大きな都市の輸入品を扱っている店にでも行かないとないだろうとのこと。ふつう妊婦は大きいサイズの服を着て過ごすそうです。
そういわれて見廻してみると、全般的に体格のいいNZ人には妊娠8ヵ月の私より大きいお腹の人は珍しくなく、いくらでも着られる服がありました。
5. 上記以外の準備
私の経過は順調でした。8ヵ月の時に担当のGP(一般開業医)が『子供が小さすぎないか』と心配した以外は、本当に何の不調も問題もなく経過しました。勿論5ヵ月になった頃から夫の勧めで始めた安産と胎児の健康のためのお灸を毎日のように続けており、これの効果だったと思います。
仕事のない水曜日と週末には裏山のハイキングコースを歩いたり、夫婦で始めた社交ダンスのレッスンにも週2回通いました。臨月にはいる直前まで、ダンスパーティーにも参加し楽しく快適な妊娠期間でした。
また、子供への最初のプレゼントにと思い、ベビー服、くつ下、帽子などの編物にも精を出しました。このくつ下をはく小さい足、この袖口から出てくる小さい手を想うと早くこの子に会いたい‥‥と、指おり数えて予定日を待ちました。
6. 私達の出産計画
私達の出産計画はこうでした。
・仕事(夫のはり灸院の受付)は体調がよければ、できるだけ続ける。
・陣痛が始まっても、なるたけ長く自宅で過ごす。
・分娩に際して痛み止めの処置ははりとお灸。それから担当助産婦JO(ジョー)のすすめるホットバスを試みる。
・自然分娩をめざす。
・出産後、子供のへその緒は父親が切る。
予定日の2週間前には分娩担当医を受診することになっています。そこで助産婦も交えて自分たちがどんな出産を考えているかを話します。またガイドブックにはその内容を文書にして事前に提出しておくのもよいと書かれていました。
next